D'ac

元銀行員。子育てられ中。

住宅ローン金利はなぜ長期金利に連動するのか?

ちょっと前に住宅ローン金利はどうして長期金利に連動するのか? という質問をもらいました。
簡単にここでまとめておきます。

 

住宅ローンは銀行の運用商品である。

まずここをおさえましょう。
私たち顧客からすると、住宅ローンはローン(借入)商品ですが、銀行サイドからすると、住宅ローンは運用商品です。1000万円資金を投下して、いくらの利回りが得られるか。今だったら、10年固定ですら、0.5%くらいで借りられますよね。1000万円を10年間投資して、年利0.5%。どうでしょうか。
定期預金金利が0.01%だとすると、0.5%でも十分いい利率な気もしますよね。でも、貸し倒れリスクとかを考えるとどうでしょうか。それに、事業としての投資に対する利率が0.5%というのはかなり低い水準な気がしてきます。

 

銀行は"お金"を仕入れて、売る。

正確には、銀行はお金を"借りて"(仕入れて)、"貸す"(売る)。
長期金利というのは、銀行にとってみれば、お金の仕入れコストになります。それをベースにお金を顧客に貸し出すので、住宅ローンは長期金利に上乗せされる格好となるわけです。
住宅ローンは、有担保、つまり、返せなくなったときに家を没収されるということですが、そんなこんなで、長期金利にほぼ連動する形で金利が変更されるわけです。
そのほかのローン、例えば、消費者金融などは、属人的な要素で金利が決定されるので、仕入れ金利(長期金利)には連動していないわけです。

 

国債の利回りのほうが良ければ、銀行は国債を買う。

長期金利というのは、10年物国債の利回りのことです。
もし、住宅ローンの金利のほうが国債利回りよりも低ければ、銀行は国債を買ったほうがいいと判断することになります。国債利回りよりも住宅ローン金利のほうが高いから、銀行には住宅ローンで運用しよう、というインセンティブが働くことになるわけで。
そういう意味でも、住宅ローン金利は国債利回りに連動することになります。

 

とは言っても。

とは言っても、住宅ローン金利が長期金利を追いかけて、どこまでも下がるかと言われると、怪しいところであります。そもそも、現時点での超低金利住宅ローンは、銀行の"特約"として設定されているからです。"特約"競争をやめたら、金利は上昇することになります。
また、住宅ローンに力を入れていないような地銀などであれば、住宅ローン金利はそれほど下がってはいません。基本的には住宅ローンは長期金利に連動していますが、そこには経営判断も含まれるため、今後も金利が下がっていくかと訊かれると、そうとも言い切れないのが難しいところです。

 

フラット35の存在。

フラット35の金利が1%を切りました。
銀行が住宅ローンを収益源として重視する限りにおいては、フラット35の存在は無視できません。フラット35はほとんどの銀行において取り扱いがあるものの、銀行にとっては手数料収入にしかならないため、実入りが少ないからです。私が銀行に勤務していた頃もフラット35の契約はあまり歓迎されていませんでした。多少フラット35の審査が杜撰になるのもそのためです。
この銀行にとっては悩ましい存在であるフラット35の金利が長期金利に連動して押し下げられていく限り、通常の住宅ローン金利も下げ圧力がかかることは回避できないというわけです。

銀行の収益源を金利ではなく手数料に軸足を移すのであれば、フラット35の手数料収益もありがたいものとなっていくのでしょうが、多くの地銀では、その準備はできていないのが現状ではないでしょうか。

 

ということで、住宅ローン金利がなぜ長期金利に連動するのか、というお話をしてきました。
簡単にまとめます。
① 銀行は住宅ローンでお金を運用している。
② 長期金利は銀行にとっての"お金"の仕入れコスト。
③ 住宅ローンは長期金利に利潤を上乗せして貸し出されることになる。

銀行は他からお金を借りて(仕入れて)、住宅ローンを貸しているのですが、その金利水準が長期金利(国債利回り)よりも低いと誰もその銀行にお金を貸しません。だから、長期金利は長期の借入金利の基準をつくるということになるわけです。

ちなみに住宅ローン・変動は短期プライムレートを基準に決定されますが、マイナス金利になってからも変動が見られず、固定金利が引き下げられる中、変動金利に変化が見られないのは、2つの金利が違う体系で動いているからと言うことができるでしょう。

以上。