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D'ac

元銀行員。現在:写真撮影・加工。金融ライター・翻訳。子育てられ中。

インフレ起こして、政府債務は帳消しにするよ! って言われたら信じる?(追記あり)

夫に説明する 経済
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最近話題のシムズ論。みなさんはもうご存知でしょうか。

 

要するにタイトル通りのことです。
日銀がお金を流し込んでも、金利を下げても、上がらない物価上昇率。
日銀が「お金増やすよ! だからインフレになるよ!」と言っても、みんなの心は動きません。そんな中現れたのが、冒頭のシムズ論。シムズ論、要するにシムズさんが言い出したお話なわけですが、それによると、「インフレ(物価上昇)の期待値を上げることができるのは、中央銀行(日銀)じゃなくて、政府なんだよ!」ということなのです。

 

一体どういうことなのでしょうか。
いつものごとく、ザックリとまとめていきたいと思います。

 

日銀が今までやってきたこと。

日銀は今まで人々のインフレ(物価上昇)への期待を底上げすべく、経済に流すお金の量を調節したり、金利を引き下げたりしてきました。インフレというのは、物価が上昇することです。

 

物価が上昇する、とはどういうことか。そう、貨幣価値が下がることなんですね。リンゴ一個が100円から120円に値上がりしたときに、リンゴが値上がりした、と考えることもできますが、逆にお金の価値が下がったと考えることもできます。リンゴだけが値上がりしたら、貨幣価値とは関係のないところに原因がありそうなものですが、すべてのものが値上がりしたら? そう。それは、物価が上がっているのではなく、貨幣価値が下がっている、ということになるわけです。

 

そして、貨幣価値を下げるためにどうしたらいいのか。それは貨幣の量を増やすこと。モノの数よりもお金の量が増えたらお金の価値が下がるじゃないか。
そういう話なわけですから、インフレ・デフレはお金の量の問題である。ということで、中央銀行が経済に流すお金の量を調整することで、インフレ・デフレはコントロールできる、と考えたわけです。

 

この考え方のもとで、中央銀行は通貨価値をコントロール、そして、政府は増税やら、無駄遣い削減やらを行って、財政を健全化していけばいい。
そういった分業体制が今までの主流でした。

 

中央銀行→インフレなどのお金の流れを決める。
政府→倹約(歳出削減)と収入増(増税)で健全化

 

ところがこの枠組み、いつまで経っても効果がでない。

 

そこでシムズさんという人が現れて、「インフレは政府の仕事じゃない?」といったもんだから、次。

 

そして、バトンは政府へ。

以上のような具合で、中央銀行がせっせと経済にお金を流し込み、金利を下げたり下げたり、えっちらおっちらやっておったのですが、どうも具合が悪い。
そんなこんなで新しく出てきたアイデアがコレ。
「インフレは政府の仕事である」
つまり、金融政策(日銀のお仕事)で色々いじくりまわすのではなくて、財政政策(政府の仕事)でやってのけましょう、ということなわけです。

 

財政政策…具体的にいうと、「借金して財政赤字を増やします。政府支出を増やします。そして、赤字分は将来のインフレで賄っちゃいます!」と宣言すること。
財政赤字が増える、ということは国債の信用性が低下するってことだし、政府がそういうんだから、実際にインフレになるかも…と考える人が増えて、実際インフレ圧力がかかることが期待できるわけです。

 

この「インフレは政府のお仕事」な世界では、インフレが政府の借金を消してくれます。インフレというのは、通貨価値が下がること。つまり、借金をしている人は、その借金が実質的には減ることになるし、お金を貸している人は、実質的には戻ってくるお金が少なくなります。インフレは債権者から債務者への富の移転である…というのはよく聞かれる文句なわけでして。
だから、「インフレになるぞ」って宣言して、借金をふやすだけで、物価は上がるし、インフレが借金を帳消しにしてくれるから、増税もなく、財政健全化。なんとも優しい世界が実現しそうです。

 

増税なしで財政状態が良くなる魔法の杖。

「政府が借金を増やしていっぱい使うからインフレになるぞ! インフレで借金を返すぞ!」と宣言したら、実際インフレも起こるし、財政赤字が増えたところで、インフレで返せてしまう。
なんとも都合のいい話で、これが実現すれば、万人ハッピーとなりそうなものです。
それに、なんとなく、うまくいきそうにも聞こえるし、シムズさんよく言った。万歳! どんどんお金は使ってしまえ! 

 

とはいえ、なんとなく、甘い話には裏がありそうな。そんな感覚、誰でもありますよね?

 

政府は誰からお金を借りているのか。

さてさて、政府が増やして踏み倒そうと考えている(?)借金、一体誰から借りているのでしょうか?
日本の借金(国債)はほとんどが日本国内で消化されているとされます。つまり、債権者は私たちです。(あ、私はないかも…)あとは一部、海外投資家たち…ですね。

 

「今からいっぱい借金して、インフレ起こすぞー!」となれば、その負担をするのは、国債を購入している(国にお金を貸している)投資家や銀行などなど。
つまり、このシムズさんの案は、金融システムに不安定さをもたらし、銀行に大きな負担をかけてしまうことが予想されます。
しいては、銀行にお金を貸している、要するに、預金者の金利がまたまたさらに減ってしまうことで、私たちのお金にも影響は避けられないこととなるでしょう。

 

インフレが止められなくなるかも。

また、借金を増やしてインフレを起こす、とのことですが、一旦上昇し始めた金利水準をちょうどいい具合に止められるかどうかは、不透明。
もし、インフレが適切に止められない場合には、大きな問題となることは避けられません。

 

 

おわりに。

こんな具合のシムズ論ですが、実験してみるにも失敗したときのことを考えると恐ろしいような気がします。
ところが、実際には現在、狙ってか狙わずかアメリカのトランプ政権が財政支出を拡大し、法人減税などの減税策と併せることで実質的に実験していると考えることもできます。
つまり、日本はその実験の後追いができるということ!
そして今、トランプ大統領の政策への期待感からアメリカの金利は上昇しています。それだけで判ずると、確かに「財政支出拡大はインフレへの解」となるのかな、という気がしてきます。

 

とはいえ、財政支出によってインフレを起こし、インフレでもって財政赤字は賄えるという考えは、金融システムや今後のインフレ率の高まりを考えると安易に採用しにくいとも考えられ、また、トランプ政権における、シムズ論の実験(?)はそのほかの政策に不確定・不透明要素が多すぎて、正しく計測できるかどうか難しいものとなってきそうです。

 

まあ、やっぱり、うまい話には裏がありそうだ…ということで警戒心を持って受け止めておくに越したことはなさそうです。

 

以上。

 

*日銀の話にしろ、政府の話にしろ、結局「インフレ率が上がりそうだ」という私たちの期待感が重要になってきます。なんて言ったら、私たちが「物価が上がりそうだ」と考え、それに即した行動に出ることができるか、ってことです。「お金をいっぱい増やしたから物価が上がるよ」って日銀が言ったけど、みんな信用しなかった。けれど、政府が「借金いっぱいして、インフレで借金返すよ」って言ったら、みんなが実際「物価上昇しそう…」って思うかな? ってお話。

 

2017年2月2日追記

シムズ氏によると、トランプ氏の財政拡大はシムズ氏が唱えるFTPLとは違ったものであるとのことです。申し訳ありませんが修正します。よろしくお願いします。