D'ac

元銀行員。子育てられ中。

マイナス金利とインフレの関係。

マイナス金利になると、預金者はお金を取られることになります。


マイナス1%の利子率であれば、100万円の預金が1年後には99万円に。2年目には、約98万円になりますよね。逆にお金を借りる人はお金をもらえることになります。100万円を借りた人は1年後に1円も返さなかったとしても、残債は99万円になりますよね。2年後には、約98万円になることになります。1円も返さなくても、ほとんどの借金は年数とともに消えてゆくことになります。

これって何かと似ていると思いませんか?
そうです。インフレです。
インフレというのは物価が上昇するということ。お金の価値が目減りしていくということ。
預金金利が1%ある場合、預金が100万円あるとき、1年後の預金額は101万円となります。でもインフレ率が1%だったら、その101万円の価値は1年前の100万円と同じです。だって、1年前に100万円で買えていたものが1年後には101万円になっているのですから。
100万円の借金があるとしましょう。インフレ率が1%であれば、1年後の100万円の価値は実質99万円です。だって、お金の価値が下がっているから。貸主は、1年後に返ってくるお金の価値を減らさないようにするためには、インフレ率を読みこんで1%以上の利息を付けて返済するように金利を設定しておく必要があるというわけです。

インフレ率が2%あるときに預金金利が1%だったら? インフレ率で考えると、1年前に100万で買えていたものが今は102万円することになる。けれども預金の増殖スピードは年1%だから、101万円にしかならない。これは実質的な預金の目減りです。
借金もそう。100万円の借金は1年後には98万円くらいの価値になる。
だから、インフレは債権者から債務者への富の移転と言われるわけです。
インフレになると預金などの市中の金利も上昇すると見込まれます。そうなると、別に富の移転は起こらないのですが、インフレの発生と金利の上昇にタイムラグが見込まれること。債務の目減りを目論むどこかの誰かさん(国家権力など)のせいで、預金金利などは上昇しないことも想定されます。これを金融抑圧なんて言ったりしますが、まあ、別にそれはおいといて。

こんな感じでマイナス金利とインフレは非常によく似た構造をしていることが見てとれるのではないでしょうか。そもそも、日本は、というか先進国は緩やかなインフレを目標としていました。それによって、穏やかに債権者から債務者への富の移転を進めようとしていたわけですね。けれど、それがどうもうまくいかない。お金を刷って、刷ってばらまいてもインフレ率は上がらない。ということでマイナス金利を導入したというわけです。インフレのほうが目に見えにくい形で負担を預金者(債権者)にかけられるので望ましかったのですが、うまくいかないのでマイナス金利を導入したというわけです。ただ、構造としては同じ。債権者から債務者への富の移転です。それがマイナス金利というものなのです。

 

マイナス金利はインフレほどはうまくいかない。

ただ、マイナス金利には落とし穴があります。
それが、タンス預金。
預金者がマイナス金利の適用を嫌い、タンス預金にしてしまえば、マイナス金利の効果は中途半端なものにならざるをえないということになります。そのため、マイナス金利の限度は、タンス預金、つまり現金をそのほかの方法で保管するためのコスト分だろうと考えられています。マイナス金利はインフレほど幅を広く持たすことが不可能というわけです。

その問題をクリアする案として、「現金廃止論」が最近は特に持て囃されています。
欧州などでは現金流通量が低くなった結果、現金廃止論が現実味を帯びてきているところも既にあるようですが、日本ではどうなるのでしょうか。

 

壮大な実験。

マイナス金利は欧州で先鞭がつけられてはいるものの、まだ結果は出ず。現在のところは実験の域を出ません。マイナス金利が成功するか失敗するかは結局のところ、時間が答えを出すのを待つしかないのではないでしょうか。

ただ、インフレ目標2%に文句を言わなかった預金者が、マイナス金利になると文句を言うのはなかなか面白いな、というふうに思います。だって、預金金利0.2%時代のインフレ目標2%ですからね。マイナス金利0.1%なんて目じゃない。「今後インフレになりますよ」と言われたら、粛々と預金を投資商品に移していたのに、「マイナス金利ですよ~」と言われたら、「とんでもない!」と怒り出す人がいるわけでして。
まあ、マイナス金利は人工的なにおいがするので、嫌われるのかもしれません。それに人は実質よりも名目を重んじるわけでして。実質的に目減りしていても、人は見かけの数字に騙されます。そういう意味でもマイナス金利は受け入れがたいのかもしれません。もしくは、みんなインフレ目標が達成されるなんて思いもしなかったんじゃないかな。なんて思ったりするところで、この話は以上とさせていただきます。